仙厓義梵

せんがいきぼん

Sengai Kibon

1750年〜1837年

美濃国武儀郡（現・岐阜県関市）

作家・作品ジャンル

仙厓／禅僧、画家
江戸時代後期の禅僧、画家。
農家に生まれ、11歳で出家。師は、清泰寺第十世空印円虚。
最も有名な作品は『○△□』で、仏教・儒教・神道（あるいは道教）の三要素を象徴しているとの考え方が有力。
仙厓の描いた画は「厓画無法」と呼ばれ、禅の教えを広めるために描かれたと言われており、『指月布袋は画賛』は招福画としても親しまれている。

History

1750年: 　美濃国武儀郡（現・岐阜県関市）の農家に生まれる。農民・井藤甚八の次男。; ※生家については諸説あるが、現在は、仙厓研究に一生をささげた三宅酒壺洞（しゅこどう）氏の説が採用されている。

1760年: 　11歳で出家。得度の師は、美濃の清泰寺（せいたいじ）第十世空印円虚（くういんえんきょ）。空印は臨済宗古月派の祖である古月禅材から印可を受けた学徳兼備の禅僧で、仙厓も古月派の禅僧として出発する。古月禅材は、「鎮西の古月、東海の白隠」と称された名僧で、主に九州を舞台に活動した。禅画については「西の仙厓、東の白隠」といわれるが、宗教者としては、仙厓の師の師である古月も白隠と併称される。法名は「義梵」。; 　清泰寺は江戸中期の京狩野系の絵師によると思われる杉戸絵が今も残る名刹で、空印と清泰寺が、仙厓の禅僧としての骨格と、学問や書画に対する基礎的な素養を育んだといえる。

1768年: 　空印隠棲後、空印の法席を継いだ兄弟子の瑞巖唯諾（ずいがんいだく）について修行を続け、19歳で初行脚。; 　仙厓が第二の師としたのは、武蔵国（現・横浜）東輝庵（とうきあん）の月船禅慧（げっせんぜんね）。月船のもとでさらに修行を重ね、印可を得る。

1781年: 　月船遷化を機に38歳の頃まで、再び行脚に出る。; 　福島県黒岩の満願寺には、仙厓30代の作と考えられる『石鞏（せききょう）図』が残り、宮城県石巻の広済寺には『臨済裁松・南泉斬猫図』（仙厓50代の作）が伝わっている。; 　仙厓の歌集『すて小舟』には「塩竈より松島へ渡船中実景」と題された歌もあり、行脚の足跡は美濃、京都から東北までの広範囲に渡ったといわれている。

1788年: 　兄弟子であった太宰府・戒壇院（観世音寺）の看房（留守居役）・太室玄昭の勧めで博多へ。聖福寺の第22世盤谷紹適（ばんごくしょうてき）の弟子となる。

1789年: 　仙厓40歳の時、盤谷の後を継いで聖福寺第123世住持となる。住持の座を弟子・湛元等夷（たんげんとうい）に譲り虚白院に隠棲する62歳まで、疲弊していた名刹の復興と弟子の教育に力を注いだ。; 　仙厓が聖福寺の整備にこだわった理由は、仙厓が書画に残した「扶桑最初禅窟（ふしょうさいしょぜんくつ）」という落款（らっかん）にあらわれている。「聖福寺は日本最初の禅道場であり、ここから全てが始まった。栄西以降、日本の禅はさまざまに支流を作ったが、その正道を受け継ぐのは私である」という自負が伺える。

1811年: 　62歳の秋、聖福寺住職を退任。

1812年: 　山内の虚白院（きょはくいん）に隠棲。祭りなどを楽しみ、神社仏閣や各所旧跡を訪ね歩くとともに珍奇石や古器物を集め、博物学的な研究にもいそしむ。また、積極的に博多の人々との親交を深める機会を持ち、求めに応じて書画を描き与えていたのだとか。こうして、数千点とも推測される書画が生み出されたとされている。; 　仙厓の描いた画は「厓画無法」と呼ばれ、禅の教えを広めるために描かれたと言われており、庶民に寄り添ったものとなっている。最大の特徴は、「笑い」の要素の存在。「笑う門には福来る」のことわざ通り、苦しいことも少なくなかった当時の人々の生活に、少しでも笑いと憩いをもたらそうとした仙厓の思いが感じられる。; 　中でも『指月布袋（しげつほてい）画賛』は仙厓の代表作のひとつで、招福画としても親しまれている。禅で「指月」の教えは厳しく、指は「経典」、月は「悟り」の象徴であり、座禅修行の重要性を説いている。

1822年: 　『寒山捨得豊干禅師図屏風』は、73歳で描いた仙厓の最大作であり最高傑作のひとつで、「厓画無法」を明確に標榜した記念的な作品。松や竹などの表現は端正で、画面の枠を突き破る力強さ、大きさは、江戸後期という時代を超え、桃山の障壁画を想起させるほどである。

1836年: 　後を託していた湛元が福岡藩といさかいを起こして大島に遠島となったため、仙厓は隠棲生活に終止符を打ち、第125世住持に返り咲く。

1837年: 　10月7日、88年の生涯を閉じる。; 　生涯を黒衣の僧として博多で過ごした仙厓の教えは、残された書画を通して今日も生き続けている。; 　『○△□』は、仙厓作品の中で最も有名かつ難解な作品。解釈は諸説あるが、仏教・儒教・神道（あるいは道教）の三教一致の思想を示した作品を描いていることから、これらの三要素を象徴しているとの考え方が有力である。3つの図形は横一列「□△○」で描かれ、紙面の左側に落款が描かれている。右から順に描いたと考えるのが一般的だが、墨の濃淡から判断すると□、△、○の順で描かれた様子。○から描いたと見えるように整えられながら□から描かれた理由は、仙厓が53歳の時に、妙心寺の大通和尚に宛てた手紙に見て取れる。「自分はまだまだ修行中の身であり、まだ三角である。完全な円になっていない。完全な円になるためなら命を失ってもいい」（原文は寛文）と。□から△へ、そして○への到達という道筋こそが仙厓の目標だったと思われるが、この解釈も諸説あり、どこまでも謎多き魅力的な孤高の作品となっている。; 　ちなみに、円相図は、禅僧たちが自身の悟りの境地を表現するにあたってもちいられており、起源はインド仏教において悟りの境地を象徴する「心月輪」なのだとか。何事にもとらわれることのない満ちた心の様相を円に見立てたもので、円を手で描くとしても真の丸にならないことから、悟りの象徴とされている。仙厓の描く一円相は、ゆったりとした筆運びと充実した円が特徴。

▼参照サイト

・九州大学附属図書館

https://catalog.lib.kyushu-u.ac.jp/opac_download_md/13538/P21.pdf　

・西日本シティ銀行

https://www.ncbank.co.jp/corporate/chiiki_shakaikoken/furusato_rekishi/hakata/007/nenpu.html

▼参照書籍

・仙〔ガイ〕百話

・仙厓BEST100 ARTBOX

・仙厓(せんがい):ユーモアあふれる禅のこころ (別冊太陽日本のこころ)

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