喜多川歌麿

きたがわうたまろ

Kitagawa Utamaro

1755年頃

出生地は未詳

作家・作品ジャンル

喜多川歌麿 / 浮世絵師
　江戸時代に活躍した浮世絵師。北川豊章の画名でデビュー。のち、喜多川歌麿に改名。版元・蔦屋重三郎の庇護の下、絵入狂歌本や艶本を刊行し人気を博す。代表作は『婦人相学十躰・婦女人相十品』『歌撰恋之部』などの美人大首絵シリーズ。幕府の出版統制令の下、判じ絵『高名美人六家撰』などで対抗し、晩年は肉筆画『深川の雪』なども制作した。

History

1755～58年: 　生年、出生地など未詳。本姓は北川氏、本名は勇助。一説に市太郎とも。

1770年: 　絵入俳書「ちよのはる」に茄子図を描く。師である狩野派の町絵師・鳥山石燕（とりやませきえん）に与えられたと推定される「石要」を用いていることから、この頃すでに門人になっていたと思われる。石燕は武者絵や妖怪絵で名高いが、1773年刊の絵手本『鳥山彦（とりやまびこ）』には動植物や風景を描いた図があり、歌麿の狂歌絵本に影響を与えたといわれている。

1775～76年: 　北川豊章（とよあき）の署名で浄瑠璃の正本、洒落本、読本、黄表紙などの仕事をし、細判錦絵の役者絵を作画。浮世絵の確たる師のいなかった歌麿は、勝川春章、北尾重政、鳥居清長といった先輩絵師たちの作風を手本にしながら、独自の画風を模索していた。

1781～89年: 　画号を歌麿と改め、歌麿の才能をいち早く見出した版元・蔦屋重三郎の庇護の下、錦絵の美人画や豪華な絵入狂歌本の政策に携わり、浮世絵の世界に足場を固めていく。なかでも、1788年頃に刊行された彩色摺絵入狂歌本『画本虫撰（えほんむしえらび）』は虫・貝・鳥の三部作で、写実を貴重とした造形は高い評価を得た。

1792～93年頃: 　版元・蔦屋重三郎より『婦人相学十躰（ふじんそうがくじったい）・婦女人相十品（ふじょにんそうじゅっぽん）』を出版。美人大首絵のジャンルを確立させた歌麿の、最も早い時期の大首絵シリーズである。相貌の理想的類型はそのままに、説明的な背景画を描かないことで姿態の美しさを際立たせ、上半身をクローズアップすることで、一人ひとりの個性を描き分けて見せた。シリーズ名を「十躰」「十品」としていることから、十枚の連策を企図していたはずであるが、『婦人相学十躰』が5図、『婦女人相十品』が4図で、「ポペンを吹く娘」は両シリーズにあるので、計8図しか確認されていない。また、『婦人相学十躰』の『浮気之相』『面白キ相』の2図にのみ副題が画中に記されている。; 　『歌撰恋之部（かせんこいのぶ）』シリーズを出版。シリーズ名の「歌撰」は造語で、「歌仙」「撰歌」などをもじったものと思われる。「恋之部」は、和歌や狂歌などを題材別に分類した類題集が四季（春夏秋冬）、恋、雑などの部類で構成されるのになぞらえたもので、四季を題材にした浮世絵の揃物があるなら、恋のシリーズがあったもよいという発想と思われる。さまざまな年齢・身分の女性を描いた大首絵のシリーズであるが、遊女は含まれていない。『婦人相学十躰・婦女人相十品』と比べると女性の顔をさらに拡大しており、それぞれの目や眉、口などの細部に特徴を与えることで、顔の個性や表情を描き分けている。女性の恋心という内面的なものを、その表情や仕草の中に表現しようとした作品であり、歌麿作品の中でもとりわけ評価が高い。; 　このふたつのシリーズは、歌魔の最高傑作として名高い。　; 　1793年は、一枚絵に遊女以外の女の名前を書き入れることが禁じられ、歌麿は名前を判じ絵で表した『高名美人六家撰』なども手がけている。

1794～1795年頃: 　美人大首絵や半身像から新たに構図を工夫し、『当時全盛似顔（美人）揃』や『娘日時計』などの7分身像を制作。7分身の構図では、大判の画面に、膝あたりまでを画面に描き込んだ美人の座像、立像を描いた。この少し前に、鳥文斎栄之（ちょうぶんさいえいし）が美人の座姿の全身像を盛んに描き人気を得ていたことから、歌麿は対抗するように、同じ座像であっても7分身として体を大きくとらえて新鮮な構図を工夫した。比較的シンプルな画面構成でありながらも、黄潰しを多用し、衣装にごま摺を用いるなど、摺技法にも工夫が凝らされている。; 　『娘日時計』は一図に2人の人を取り合わせた5枚揃で、「辰ノ刻」から「亥ノ刻」まで（およそ8～17時）の日中の一刻（約2時間）ごとに書き分けたシリーズとなっており、膝下あたりまでの7分身の立ち美人に、半身座像を取り合わせた構図が基本となっている。輪郭線を墨線とせず、没骨で表現して肌の柔らかさを演出しようとした、実験的な試みのある作品である。「巳ノ刻」のみ鼻梁線を空摺で表しているが、斬新にすぎたためか、他は墨線となっている。

1796年: 　一枚絵に遊女以外の女の名前を判じ絵にすることや、吉原の遊女以外の名前を記したり絵で表したりすることも禁止され、以降、主題や構図など作風を変容させていくことになる。

1798～99年頃: 　浄瑠璃を題材に悲恋の男女の切ない姿を題材とした『実競色乃美名家見（じつくらべいろのみなかみ）』シリーズを制作。生活風俗を主要な画題とするようになる。

1800年: 　女性大顔絵が禁止。男女の戯れ絵が止まず不行き届きであり、売り出さないようにとの触れが出る。『婦人相学拾躰』シリーズのように、絵とはまったく関係ないような肯定的な解説を書き入れているのは、当局を刺激しないために文字情報で対処したと考えられる。

1804年: 　『絵本太閤記』関連の錦絵出版により、手鎖（一説に入牢）の刑に処せられる。その後、歌麿の錦絵は、当たり障りのない内容に終始して、潑剌とした魅力が明らかに失われてしまう。それでも同時期に当局の目にはおよばない『深川の雪』（岡田美術館蔵）をはじめとする肉筆画の意欲作が生まれていることは、歌麿にとっての最後の輝かしい業績であり、幸運である。

1806年: 　歌麿、生涯を閉じる。

▼参考書籍

春画の楽しみ方完全ガイド (池田書店の趣味完全ガイドシリーズ) 単行本 – 2009/7/2

歌麿『画本虫撰』『百千鳥狂歌合』『潮干のつと』 (講談社選書メチエ) | 喜多川歌麿, 菊池庸介 |本 | 通販 | Amazon

別冊太陽245 歌麿決定版 (別冊太陽日本のこころ 245) | 浅野秀剛 |本 | 通販 | Amazon

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