写楽

しゃらく

Syaraku

生没年不詳

江戸

作家・作品ジャンル

写楽 / 浮世絵師
　江戸時代中期の浮世絵師。1794年5月、突如として浮世絵界に現れ、黒雲母摺の豪華な大首絵を描き、約140図の多作品を出版したが、デビューから約10カ月後に突如として姿を消し、未だ正体は不明。写楽の歌舞伎役者を描いた作品は、その画風の変化によって4つの時期に分けられており、代表作は第一期の『三代目大谷鬼次の江戸兵衛』。

History

□第一期: 1794年5月興行を描いたもの; 　第一期に分類されている作品は、1794年5月、控櫓（ひかえやぐら）の都座、桐座、河原崎座の夏興行を皮切りに売り出された、豪華な黒雲母摺（くろきらずり）の大首絵二十八図（現存確認数は377点）。; 　この企画を仕掛けたのは江戸時代のプロデューサー、版元・蔦屋重三郎で、写楽の大首絵は、芝居街の景気づけともなる曾我祭を願って、夏興行の時に売り出されたと思われる。都座の「花菖蒲文禄曾我（はなあやめぶんろくそが）」11枚（一人図9枚、二人図2枚）、桐座の「敵討乗合話（かたきうちのりやいばなし）」7枚（一人図6枚、二人図1枚）、河原崎座の「恋女房染分手綱（こいにょうぼうそめわけたづな）・義経千本桜（よしつねせんぼんざくら）」9枚（一人図8枚、二人図1枚）がバランスよく二十八図に描かれていることが理由。当時の江戸では、初春興行に曾我物を上演する風習があり、それが継続して5月まで上演できた場合、これを祝して「曾我祭」が行われており、江戸文化の仕掛け人であった蔦屋重三郎であれば、舞台に関する情報を事前に、念入りに収集することができたため、初日とほぼ同時に、豪華黒雲母摺二十八図を売り出すことができたと考えられる。　; 　また、黒雲母摺とは、人物の部分に型紙を宛、墨に鉱物性の雲母（きら）と膠（にかわ）を混ぜた「黒雲母」と呼ばれる光沢のたる絵具を刷毛で引き、役者の姿を際立たせる演出を施したもので、三座の大首絵二十八図をほぼ同時に売り出すためには、大喰の彫師や摺師を確保しなければならないため、これらの職人が比較的暇な時期であった5月に登場したとも指摘されている。; 　写楽が登場した1794年当時は、天明の飢餓とそれに続く打ち毀し、さらに寛政の改革と続く不況で、江戸の芝居街は大打撃を受け、役者の年俸も抑えられ、興行の継続が危ぶまれるといった、芝居街にとっては正念場の一年だった。; 　第一期の特徴は、役者の上半身のみをデフォルメし、その役者たちの正体は何かを見極めようとしている。美術品としての値段も高く、珍重されている。; 　写楽第一期作品群の中で最も人気で有名なのが『三代目大谷鬼次（おおたにおにじ）の江戸兵衛（えどべえ）』で、江戸兵衛が奴一平から金を盗もうと襲いかかるシーンを描いたもの。懐から突き出された両手の印象が強烈であるが、絵本番付の「四条河原の場」でも、右手の指を広げ、前へ突き出す江戸兵衛が描かれている。豊国画の全身像も、両手を広げるようにして立っている。ただ、各絵で微妙に手の出し方が異なっているのは、この演出が予定の段階で描かれていたからではないかといわれている。写楽は表情を重視したためか両手のあり方が不自然だが、そこがこの作品の鮮烈な魅力でもある。; 　『初代市川男女蔵（おめぞう）の奴一平（やっこいっぺい）』（衣装の朱が鮮やかな印象から『赤絨毯（あかじゅばん）』よも呼ばれている）は、『三代目大谷鬼次の江戸兵衛』と対になる作品。一平は由留木（ゆるぎ）家の家臣・伊達の与作の奴で、「四条河原の場」で江戸兵衛、鷲塚八平次（わしづかはちへいじ）、その奴団介らに襲われ、金子300両を奪われる。本図は、今まさに刀を抜き、悪党たちと戦おうとしているところで、表情からは大事の金子を守ろうとする決死の覚悟が読み取れる。

□第二期: 同年7月、8月興行を描いたもの; 　第二期に分類されているのは、『都座口上図』、7月都座『傾城三本傘（けいせいさんぼんからかさ）』、7月河原崎座『二本松陸奥生長（にほんまつみちのくそだち）』『同　二番目』、8月桐座『心霊矢口渡（しんれいやぐちのわたし）』『四方錦故郷旅路（よものにしきこきょうのたびじ）』。; 　第二期では、役者の全身像が描かれ、芝居の内容と役者の芸風が的確にとらえられている。写楽が描いた役者全身像から、絵が語る役者の個性と芸の雰囲気を読み取ることができる。

□第三期: 11月顔見世興行を描いたもの; 　第三期に分類されているのは、都座『閏訥子明和歌誉（うるおうとしめいかのほまれ）』『花都郭縄張（はらのみやこくるわのなわばり）』、桐座『男山御江戸盤石（おとこやまおえどのいしずえ）』『同　二番目』、河原崎座『松貞婦女楠（まつはみさおおんなくすのき）』『同　二番目』『同　二番目新狂言』。; 　第三期では、役者そのものだけではなく、舞台全体を描こうとした。;

□第四期: 1795年、初春興行を描いたもの; 　第四期に分類されているのは、都座『江戸砂子慶曽我（えどすなごきちれいそが）』『同　二番目』、桐座『にどのかけかついろそが』。河原崎座で取材した作品は確認されていない。; 　第三期細判と同じく、続物の構成になっている背景の描かれた全身図である。; 　こうして写楽は約140図の多作品を出版し、美術史にも数多くの傑作を遺したが、デビューから約10カ月で姿を消し、その実像は全く知られていない。当時の美術年鑑「浮世絵類考」には、写楽について「あまり真にかかんとてあなぬさまに書きなせ　しかは長く世に行はれず一両年にて止ム」と記されており、役者の素顔を付度なく描き出したことが不評だったために、姿を消してしまったのだと結論付けられているが、写楽の出生、実名、師匠、門歴、私生活などは一切不明である。当時から正体を隠していた節も感じられるが、写楽解明のカギを握る蔦屋重三郎は沈黙を突き通したため、活動から200年以上経った今も多くの謎が解明されていない。

▼参照サイト

浮世絵史上最大のミステリー！謎の絵師・東洲斎写楽ってどんな人？

▼参照書籍

「東洲斎写楽」考証単行本 – 2012/9/1 - 中嶋修

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