萬鉄五郎

よろずてつごろう

Tetsugoro Yorozu

1885年〜1927年

岩手県東和賀郡十二ケ村（現・東和町土沢）

作家・作品ジャンル

画家

萬鉄五郎／画家
　花巻市東和町土沢に生まれ。東京美術学校入学。卒業制作『裸体美人』（重要文化財）で画家デビュー。近代日本絵画に新時代をもたらした青年画家グループ「フュウザン会」に加わり、荒々しい強烈な色彩と大胆な筆触による近代的な画風を展開。二科会展に出品した『もたれて立つ人』は、日本近代洋画史の中で、前衛的な作品として注目を集めた。

History

1885年: 　岩手県東和賀郡十二ケ村（現・東和町土沢）に生まれる。萬家は屋号を「八丁」と称し、農海産物の取り継ぎをする回送問屋で、村随一の地主、資産家であった。

1892年: 　土沢尋常小学校に入学。

1896年: 　土沢尋常小学校を卒業。土沢高等小学校に入学。

1900年: 　土沢高等小学校を卒業。初孫であった鉄五郎を手元から離すことを嫌った祖父・長次郎の意向によって中学進学の希望を果たせず、土沢で過ごさざるをえなかったが、その間に日本画を学びながら水彩画を独習する。

1901年: 　大下藤次郎著『水彩画の栞』を読んで感化され、大下のもとに作品を送って批評を受ける。

1902年: 　祖父・長次郎死去。

1903年: 　従兄弟の萬昌一郎と共に上京。神田中学校三年へ編入学、のち郁文館中学校に移り、早稲田中学校3年生に編入学。中学校内で友人らと美育部をおこす。; 　ヨーロッパから帰国した大下藤次郎を青梅に訪ね、作品の批評を受ける。

1904年: 　昌一郎と共に、臨済宗円覚寺派の僧、釈輟翁宗活禅師が営む禅堂両忘庵に通い、参禅するようになる。

1905年: 　中学に通学するかたわら、本郷区菊坂の白馬会第二洋画研究所に通い、長原孝太郎、小林鍾吉の指導を受けてデッサンを学ぶ。

1906年: 　早稲田中学校を卒業。早稲田大学予科に進学。; 　宗活禅師の率いる両忘庵の一行とともに渡米。しかし、臨済禅の布教と開拓農業の計画は破綻。アメリカ人家庭のボーイとなって働き、東部へ行って美術の勉強を志したが遂げられず、単身帰国し、再び白馬会第二洋画研究所に通う。

1907年: 　東京美術学校西洋画科予備科に入学、本科に進学する。

1911年: 　日本画科の広島新太郎（晃甫）、同級生の平井為成、山下鉄之輔とアブサント会を結成し、本郷帝大前のレストラン・パラダイスで同人小品展を開催。この会は、日本で最も早く後期印象派の影響を反映した集団であった。

1912年: 　東京美術学校西洋画科本科卒業。引き続き研究科に在籍する。; 　卒業制作は『裸体美人』（国重要文化財、東京国立近代美術館蔵）。その後、原人会展にも出品・展示され、当時の青年画家の注目を集めた。萬自身が「ゴッホやマチスの感化のあるもので半裸の女が赤い布を巻いて鮮緑の草原に寝転んでヘイゲイしている図」（「私の履歴書」）といっているように、草原のふとくたくましい筆触はゴッホそのものであり、裸婦や赤い腰布にマチスが見出される。正面から近代造型の開拓に立ち向かい、絶えざる苦闘の連続であった萬の芸術展開の出発点をなした作品。; 　フュウザン会が結成され、この秋と、翌年の春との2回展をもって消滅したが、萬はこれに加わり、『煙突のある風景』『ボアの女』（岩手県教育委員会蔵）『日傘の裸婦』（神奈川県立近代美術館蔵）などの荒々しい強烈な色彩と大胆な筆触による自身の近代的な画風を展開させた。

1914年: 　生活と制作上の理由から、家族を伴い郷里・土沢に帰り、制作に専念する。この間、連作のひとつ『自画像』（岩手県教育委員会蔵）や『雪の日』（長岡現代美術館蔵）を制作するが、かつて鮮烈をきわめた赤、緑といった色彩対比の激しい色調はその影をひそめ、モノクロームへと変化し、キュビズムのような多視点による形態の簡略化が明らかになっていく。

1915年: 　盛岡市を中心に画会を起こす。

1916年: 　家族とともに、郷里で描いたたくさんの作品を引き下げて再び上京。肖像画会、12カ月色紙頒布の画会を起こす。

1917年: 　数多くの作品制作を行い、二科会展にキュービズム的な作品『もたれて立つ人』（東京国立近代美術館蔵）『筆立のある静物』を出品。合理的、論理的思考を不得意として感性的な西欧現代美術の受容と移植を繰り返してきた日本近代洋画史の中で、前衛的な作品として注目を集める。

1918年: 　雑誌「太陽」「文章世界」に表紙絵、挿画を描く。; 　「中央美術」に『斉藤君』を執筆し、文筆活動を始める。

1919年: 　一月会展に日本画『山水』3点を出品、以後の日本画制作の端緒となる。; 　不規則な生活、雑誌社依頼の児童雑誌付録の考案などによる過労、睡眠不足から強度の神経衰弱症となり、神奈川県茅ヶ崎に療養のため転地。この頃から、水墨のリズム、筆のリズムを鍛錬すべく、水墨画の制作を試みる。; 　第6回二科展に『木の間より見下した町』（岩手県教育委員会蔵）『雪の景』『女の像』『庫』の4点を出品し、二科会会友に推挙される。; 　明治40年（1907年）の東京美術学校西洋画科入学者の13名による「四十年社」を結成。東京美術学校倶楽部において第1回展を開催、『庭の花』『少女』を出品。;

1921年: 　近所の農家の一軒を借りてアトリエとし、この頃から再び本格的に油彩にとりかかる。; 　随筆『其日々々』（『中央美術』6月号）を発表。

1922年: 　春陽会が設立され、森田恒友を通じて勧誘を受け、客員として参加。; 　第9回日本水彩画会展に『桑の若葉』ほかを出品、会員に推挙される。; 　画会鉄人会を起こす。;

1923年: 　小林徳三郎らとともに円鳥会を組織。会員には、児島善三郎、林武、前田寛治、恩地孝四郎、平塚運一などがいる。; 　春陽会は客員を廃し、正式に会員となる。

1924年: 　萬鐵五郎裸体十題木版画会を興す。

1926年: 　アルス社より著書『文晃』を出版刊行。

1927年: 　肺結核性の疾患から健康がすぐれず、風邪から肺炎を病んで床につき、後、死去。

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