葛飾北斎

かつしかほくさい

Katsushika Hokusai

1760年〜1849年

下総国本所割下水（現・東京都墨田区）

作家・作品ジャンル

葛飾北斎 / 浮世絵師
　江戸時代後期の浮世絵師。輸出陶器の梱包材に使われた『北斎漫画』をフランスの銅板画家フェリックス・ブラックモンが見つけ、画技の高さに驚嘆したという逸話が有名。信憑性は近年問題視されているが、この絵手本は「ホクサイ・スケッチ」の名で親しまれ、欧米で浮世絵が流行する端緒となった。代表作は、富士山を題材にした『富嶽三十六景』。

History

1760年: 　下総国本所割下水（現・東京都墨田区）に生まれる。幼名は時太郎（ときたろう）、のちに鉄蔵（てつぞう）に改名。川村氏の子として生まれ、叔父にあたる幕府御用鏡師中島伊勢の養子となるも、のちに実子に家督を譲り、川村家に戻る（飯島虚心著「葛飾北斎伝」（1983年刊））。

1765年: 　作画への興味を示し始めたのは6歳頃（「富嶽百景」の跋文で北斎自身が語っている）。奇しくも、1765年は木版技術の改良により多色摺の錦絵が完成した、浮世絵版画界にとって記念すべき年であった。

1771年頃: 　12,3歳頃、貸本屋の小僧として働き、暇を見つけては貸本の挿図を見ながら絵の勉強をしていたと伝えられている。

1773年頃: 　14,5歳頃、彫刻家某の下に就き、木版印刷の版木彫りという職を得る。入門後数年にして、洒落本『楽女格子（がくじょごうし）』の文字彫りを一部担当するなど、非凡な才能を発揮していたといわれている。

1778年: 　19歳で版木彫りの生業を捨て、浮世絵師・勝川春章（かつかわしゅんしょう）に入門。絵師を志す。春章は、リアルなタッチの役者似顔絵を次々と発表し、形式化していた当時の役者絵に新風を吹き込んだことで人気を得ていた浮世絵師である。

1779年: 　遊女を描いた簡単な挿絵と4枚の役者絵を発表し、画界にデビュー。画名は勝川春朗（しゅんろう）。春章の「春」と、春章の別号である旭朗井（きょくろうせい）の「朗」をとった名である。その後、精力的な創作活動を展開していった。; 　春朗期約15年間に遺した作品は現在確認されているだけでも、浮世絵版画200点以上、黄表紙などの挿絵本50種類以上、ほかに若干の絵暦などがある。

1792年: 　勝川春章が他界。春朗は号を門弟の豊丸（二世春朗）に譲り、勝川派を離脱する。

1795年: 　「宗理（そうり）」という新たな落款で作品を発表しはじめる。この画号は、桃山時代末期に俵屋宗達（たわらやそうたつ）や本阿弥光悦（ほんあみこうえつ）らによって開かれた琳派の絵画様式を目指し、俵屋と称した一門（宗理派）の頭領が用いたものである。襲名までのわずか数カ月間で宗理派様式を確立し、肉筆画や狂歌絵本の挿絵など、新たな分野へ意欲的に挑戦しはじめた。こうして、新生宗理派ともいうべき独自の様式を完成させ、摺物（すりもの）や狂歌絵本の世界で評判を得るなど、宗理は確固たる地位を築いていく。

1798年: 　宗理は号を門弟の宗二に譲り、「北斎辰政（ときまさ）」と名乗って独立を果たす。この画名は、元来北斎が日蓮宗の熱心な護持者で、柳嶋妙見（法性寺）を深く尊崇していたことに由来するものという。妙見とは、すべての事柄を見通す力を司った妙見菩薩のことで、北斗七星に「北辰」「七政」の別称があることから、「北斎辰政」の号が生まれたといわれている。

1804年: 　読本の挿絵に傾注していく。1804年（文化元年）は、寛政の改革による出版統制を受けて黄表紙や洒落本が逼塞するなか、幕府の意向に沿った道徳的で教訓的な読本が世に流行りはじめていた頃で、創意工夫を凝らした北斎の挿絵は読者の興味を引き、巷で大評判となった。1804年からの10年間で、北斎が携わった読本の数は190冊余りに渡る。; 　また、肉筆画の制作に心血を注ぎ、『潮干狩図』『酔余美人（すいよびじん）図』などの名作が生まれた。; 　この時期に、「葛飾北斎」に画号を改めた。

1812年: 　読本挿絵の仕事が一段落した頃、関西方面へと旅立つ。名古屋の門人・牧墨僊（まきぼくせん）宅に数カ月間滞在した北斎は、300図におよぶ小さな版下絵を制作する。

1814年: 　北斎の版下画が一冊にまとめられた絵手本が、版元・永楽屋東四郎から出版される。これこそが、錦絵『富嶽三十六景』に継ぐ北斎の代表作『北斎漫画』（島根県立美術館蔵）である。絵手本とは、文字どおり習画の際に用いる手本のことで、元来は師から弟子へと肉筆で描き与えられるものであるが、肉筆で絵手本を与えるにはあまりにも門人が増えすぎていたため、北斎は大量摺刷可能は版本に仕立てた。同時に、全国に散在する北斎の私淑者や熱心な愛好者、図案を望む職人などのニーズも満たした。; 　『北斎漫画』は、現代のA5判よりやや大きめの半紙本サイズで、全15編中には、人物、動植物、建造物、日用品、風俗、神話宗教の神仏など、図版総数3900余りが収められている。この収載図のいくつかは、オランダで刊行されたシーボルトの大著『日本』に転載されるなど、北斎存命中からすでにヨーロッパで紹介されていた。また、フランスの銅板画家フェリックス・ブラックモンが、日本から送られてきた陶磁器の梱包材に『北斎漫画』が使われていたのを見つけ、画技の高さに驚嘆したというエピソードも有名。この逸話の信憑性は近年問題視されているが、この絵手本が古くから「ホクサイ・スケッチ」の名で親しまれ、欧米で浮世絵が流行する端緒となった。

1831年頃: 　大判錦絵『富嶽三十六景「凱風快晴」』（島根県立美術館蔵）などの、華やかで優れた一連の錦絵が数多生み出される。従来、浮世絵には風景画という分野は存在しなかったと思われるが、一連の北斎作品は各地固有の景観に季節や風物を織り交ぜて描く名所絵とは趣を異にしており、『富嶽三十六景』の大流行により浮世絵界に風景画を確立したのは、北斎の偉大な業績の一つである。;

1834年: 　絵本『富嶽百景』初編を発表。前年に出された出版予告に、「我真面目の画訣この譜に尽せり」とあり、北斎が並々ならぬ意欲をもって本作の制作に望んだことが伺える。また、さらなる精進を続けて自己の画風を百有十歳までに完成させることを同書の跋文で近い、作画への情熱を世の人々に示した。

1839年頃: 　肉筆画に傾注。和漢の故事古典に基づく宗教画や自然を描くことに主力が注がれ、浮世絵師が本分とする時様（じよう）風俗は姿を消していった。また、従来に増して華やかで濃密な色調、暗く重厚な画面構成を見せ、かつてないほどのさまざまな技法を混用するなど、作風にも変化が見られた。

1849年: 　病床に伏し、90年の生涯を終える。

▼参照サイト

北斎の生涯

▼参照書籍

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