白隠慧鶴

はくいん　えかく

Hakuin Ekaku

1686年〜1769年

駿河国原宿

作家・作品ジャンル

白隠慧鶴／禅僧
江戸時代中期の禅僧。
東海道原宿に生まれ、日本各地を行脚した後に松蔭寺の住職となる。
禅宗の開祖・建磨大師を描いた『半身建磨』が有名。「自分の心にこそ仏が宿り、それを自覚することで仏になる」と、説いている。
字が読めない子どもでもわかるよう、仏の教えを盛り込んだ「禅画」や歌などを1万点以上自作し、悩める人を救おうと尽力した。

History

1685年: 　東海道13番めの宿場町、駿河国駿東郡原宿（現・静岡県沼津市原）に生まれる。長沢家の三男、幼名は岩次郎。

1695年: 　母に連れられて行った昌原寺で因果応報の地獄話を説教され、「これまで何も考えずに虫や魚を殺してきた自分は、必ずや地獄に落ちるに違いない」と、戦慄する。

1699年: 　仏道入門に救いを求め、出家。父の叔父大瑞宗育（だいずいそういく）禅師が復興した原の松蔭寺で、単嶺（たんれい）和尚について得度し、「慧鶴（えかく）」と名付けられる。; 　出家後も地獄について考え、晩年には地獄と極楽は表裏一体のものであるという考えに。『南無地獄大菩薩（なむじごくだいぼさつ）』の各号や、地獄と極楽を同じ画面に描いた『地獄極楽返相図（じごくごくらくへんそうず）』を残している。

1700年: 　「法華経」を読むも、たとえ話ばかりの内容に失望。しかし、松蔭寺には、慧鶴の自筆でびっしりと註釈が加えられた法華経（静岡県指定文化財）が伝わっており、その後も内容を深く研究していたことがうかがえる。

1703年: 　仏道に迷いが生じ、詩文にのめり込む。

1704年: 　詩文の学識では天下無双ともっぱらの評判だった、美濃大垣（現・岐阜県大垣市）の瑞雲寺の馬翁宗竹（ばおうそうちく）に師事。書物の虫干しで手に取った「禅関策進」に書かれていた錐（きり）を足に刺して修行を続けたエピソードに衝撃を受け、気持ちを入れ替える。

1707年: 　富士山が噴火し周りが避難する中、慧鶴は水火を辞せぬ不動心を養う好機として、座禅に徹する。

1708年: 　行脚を志し越後・高田～信州・飯山（現・長野県飯山市）と転じ、生涯の師・正受庵（しょうじゅあん）の正受老人と回り逢う。大悟したつもりの慢心はみじんに砕かれ、厳しく指導されるが、8カ月後に首尾よく師の印可を手中にし、松蔭寺に戻る。

1710年: 　修行に打ち込むあまり、ノイローゼのような症状を患う。そこで、京の白幽（はくゆう）仙人を訪ね、内観の秘法（瞑想法）と軟酥（なんそ）の法を授かり、病を克服する。; 　内観の秘法とは、古くから東洋に伝わる医道の原理について、白幽が説いたもの。「心と体の生かし方が、大自然の摂理に適っていれば、人間は身も心もともに健全でいられる」という大原則から、血液の循環・呼吸へと話が進む。

1717年: 　松蔭寺の住職となる。

1718年: 　「白雪に隠れた富士山」という意味があるという「白隠」の号を名乗る。; 　松蔭寺は小さな田舎寺だったが、白隠が熱心に教えを広めたところ続々と修行僧が訪れるようになり、駿河国を拠点に50年に渡り禅の教えを説き続け、数多くの弟子を育て上げた。また、得意の書画の腕を生かし、字が読めない子どもでもわかるよう、仏の教えを盛り込んだ「禅画」や歌などを1万点以上も自作するなど、一人でも多くの悩める人を救おうと尽力した。; 　白隠の教えの中心となる考え方の一つに、「衆生（しゅじょう）本来仏なり」というものがある。「本来、人は皆それぞれが仏なのだ」という意味で、「必要以上に他人を恐れ、遠慮することはない」と白隠は説いている。;

1726年: 　秋の夜、「法華経」を読んでいる時にコオロギの声を聞き、人生最大の悟りを開く。;

1749年: 　「道中の工夫」などを説いた『遠羅天釜（おらでがま）』が刊行される。

1751年: 　武士に対し「隻手の公案」などに努めることを説く『於仁安佐美（おにあざみ）』を書き上げる。「隻手」とは片手のことで、「公案」とは師がでしに与える課題のようなもの。「両手で拍手をすれば音が鳴るが、片手ではどのような音がするのか？」「ただ頭で考えて答えを出すだけでなく、五感を遮断し、自分自身の心と向き合い、聞こえない音に耳を傾け、理屈を超えた真理と、真剣に対峙しなければならない」と、問うている。; 　『隻手布袋図』（永青文庫蔵）は、この公案をモチーフに、白隠がモデルとも言われる布袋を自身が描いたものである。

1757年: 　「内観の秘法」「軟酥の法」を説いた『夜船閑話（やせんかんな）』が刊行される。; 　白隠70代の作品と考えられている『布袋すたすた坊主』（早稲田大学會津八一記念博物館蔵）は、七福神の一人・布袋様をモデルにしたもので、白隠の自画像だとも言われている。白隠は、この絵に、「布袋どらをぶちすたすた坊主になる所　来た来た又来た　いつも参らぬ　さひさひ参らぬ　すたすた坊主　夕べも三百はりこんだ　それからはだかの代参り　旦那の御祈祷　それ御きとう……」と、賛を書いている。意味は「布袋が道楽＝人のための説法にのめりこみすぎて、すたすた坊主になってしまったが、それでも皆さんのためにお祈りしましょう」という感じだそう。江戸時代は強固な身分制度があり、権威や権力に盾突くのはかなり危険な部分もあったが、白隠は言葉と画風巧みに乗り越え、人々に笑いと仏の教えを伝えていった。

1768年: 　12月11日、松蔭寺で84年の生涯を閉じる。; 　80歳を越えての最晩年作『半身建磨』（大分県・萬寿寺蔵）は、白隠画の最高傑作。縦2m近くもある雄大なスケールで、禅宗の開祖である建磨大師が描かれている。背景を墨で塗りつぶすことにより、朱の衣を着た大達磨が浮かび上がり、鑞（ろう）引きで「直指人心、見性成仏」の賛が入っている。「自分の心にこそ仏が宿り、それを自覚することで仏になる」と、白隠は説いている。; 　半身建磨は、「半身をわずかに見せて真理全体を表している」という意味である。

1769年: 　後桜町天皇より「神機独妙（しんきどくみょう）善師」の諡号（しごう）を与えられる。

1884年　: 　明治天皇より「正宗（しょうしゅう）国師」の諡号を与えられる。

▼参照書籍

心を燃やす練習帳不安がなくなる白隠禅師の教え

禅のこころを描く白隠 (とんぼの本)

白隠ものがたり

白隠伝

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